吉田松陰の兄

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祖父は系図を調べ整理することを現役引退後の仕事の一つにしていたようだ。

特に自分の父方のことは丁寧に調べている。本人の父は生まれる前に亡くなっていること、そして伯父にあたる人も亡くなっている。男系の従兄弟たちも戦死したり早逝しているから、最後に生き残った「男子」としてきちんとした記録を作りたいという気持ちも強かったと思う。

それは現役を退いた伯父も同じことで、系図や親族名簿、親族会に力をいれることを若かった私は、それをナンセンスな事だと思っていた。自分が前を向いていきていくことで精一杯だったから気持ちに余裕もなかった。

 

私自身が急にルーツを調べだしたのは、自分の血縁関係をみわたしても、祖父、伯父が誇りにしていたそういう作業を継承する人がいないこと。また多面的な角度から、すでに滅びたこの一族のことを調べる物好きはいないかもしれない。本来であれば適当と思われている親族にその余裕はない。

 

吉田松陰乃木希典を研究する学者や歴史ファンは多いが、その周辺の人の生き方についてステレオタイプに捉えるよりも、もう少し踏み込んで調べることは一つの意義があると思う。幕末から現代にかけてどの日本人もが歩んだ道のりの一つを知ることができるのではないか、と思ったからだ。それは自分自身のためであり、今ここに、女性であり教育も環境も場所も違って育ち、考え方も価値観も違う自分がいて、彼らのことを知ることは家族の歴史の整理になるのかもしれない、とも思った。

 

ある国粋主義者の人と話をしていて、私の考え方とは彼女の信念とは相容れないようであった。「貴女みたいな人のことを先祖はどう思っているんでしょうね。」その時、私は咄嗟に「どうしてですか? 喜んでいるのではないですか。こんなに自由な世の中になって。」

 

自由な時代になり、女性も教育を受け、社会でチャンスを得られる時代に、昔の価値観で人生を逆戻りをすることはできない。明治維新によって封建社会を脱して、産業化、近代化に尽力したのもこの国に住んでいたひとたちだ。